第29回  東京・神田 文人が愛した歴史の街

東京・神田 文人が愛した歴史の街 第29回

文人が愛した街「神田」。
散策は神保町からはじめよう。「神田神保町」は約180の古書店が立ち並ぶ世界最大規模の古書店街だ。多くの文豪が執筆のためにこの街を訪れた。司馬遼太郎はトラックの荷台が一杯になるほど本を買い込んだというエピソードもあるようだ。さて、老舗喫茶店でいっぷくだ。古書店で本を買い、喫茶店で読書に耽る人の姿がこの街を象徴する。遠藤周作も喫茶店に足しげく通ったひとりと聞く。
散策は「神田須田町」へ。このあたりは、池波正太郎との縁が深い店が多い。「神田まつや」は、明治17年創業の老舗そば屋。池波の著書にも登場する。店主に池波正太郎にまつわるエピソードを聞きながら"そば前"だ。さぁ、夕暮れも近づいた。いざ居酒屋へ。
秋葉原の電気街の一画に奇跡のように佇む「赤津加(あかつか)」は、昭和29年の創業。古風な居酒屋で神田らしい粋な侠気を匂わせる。間取りがまた絶妙で、少し傾いたコの字カウンターを中央に、ちょっと人目を避ける感じの小卓、閉め切れば個室になる小上がりなどは、かつて花柳街だったころの配慮を想わせる。名物の"鶏もつ煮込み"はいつものとおり格別だ。神田駅東口から少し入ると、瓦屋根や竹垣の純和風構えの居酒屋が目に入る。「新八」だ。全国銘酒が勢ぞろいした銘酒居酒屋として定評が高い。燗酒にこだわり、銘柄ごとに適切なお燗をする。ときに割水燗、燗ざましの技も飛び出す。能登や徳島から直送された魚もすばらしく、"馬刺し"も一級品。冬の"自家製鮟肝"は絶品だ。ここで飲んでいると多様な日本酒のすばらしさに感激する。

<太田和彦さんが訪ねたお店>
神田まつや
東京都千代田区神田須田町1-13

赤津加(あかつか)
東京都千代田区外神田1-10-2

神田新八 本店
東京都千代田区鍛冶町2-9-1