第30回  東京・北千住 下町情緒と芭蕉の風景

東京・北千住 下町情緒と芭蕉の風景 第30回

松尾芭蕉が"奥の細道"の第1歩を踏み出した「千住大橋」。文禄3年に隅田川に架けられた最初の橋だ。この橋が架けられたことで宿場町が発展。「千住宿」となる。「北千住」は多くの商店街でにぎわうが、中でも「柳原千草通り」は狭い路地に昭和の面影が色濃く残る。散策ついでに腹ごしらえ。下町情緒あふれる「稲荷ずし 松むら」は"稲荷ずし"の専門店。このような専門店はきょうびめっきり少なくなった。酢飯を包む油揚げに芥子の実をふりかけた様は、なんとも美味しそうだ。んっ、旨い。濃いめに味付けされた油揚げと酢飯の調和が下町の風味を引き立てる。
夕暮れとともに居酒屋へ。狭い路地にスナック、居酒屋が並ぶ「毎日通り飲食店街」。下町のミシュラン一つ星「バードコート」は、地鶏焼鳥専門店。"レバー"は、外はカリッと中はトローリ。"砂肝"は、外はガリッと中はネットリ。どの焼鳥も超高火力による、張りつめて乾いた表面と、その中に封じ込められた味の調和がすばらしく、決して無駄に焦がさない。熱々焼鳥に冷たい"アウグスビール"がすっきりと旨い。千住屈指の名店「田中屋」は、ぴかぴかの魚を驚きの良心的値段で提供するのが親方の意地。魚は、目と鼻の先の中央卸売足立市場から旬のものが入る。真新しい店内は老舗旅館のような立派な本建築で清潔そのもの。さっぱり刈り上げた銀髪に半袖ダボシャツ、塩辛い声の渋い親方が魅力だ。息子さんは黙々と包丁を握り、お母さんと娘さんが補佐する一家の家業もいい。

<太田和彦さんが訪ねたお店>
稲荷ずし 松むら
東京都足立区柳原2-23-6

バードコート
東京都足立区千住3-68鹿明ビル 1F

田中屋
東京都足立区千住橋戸町13