第1回 第1部:"出発(たびだち)前編"
坂本竜馬は天保六年(1835)、他藩と較べてもなお身分差に厳しい土佐藩の高知城下で生まれた。 竜馬に剣を教えてくれた男勝りの姉、乙女も身分のことには口うるさい。「くそ、何が身分じゃ!こんな腐れ藩はおん出てやるわい!わしは江戸へ出て、身分なんぞハネ飛ばすでかい男になってやるわい!」 十九歳の春である。竜馬は剣術修行のため江戸に向かった。しかし時代は竜馬に剣の修行だけをさせてはくれなかった。黒船がやってきたのだ。恐怖で騒然とする人々のなかで、竜馬の反応はちがっていた。「でっかい!まるで鉄のクジラじゃ!あんな船に乗ってみたい!」