第36話  

昭和20年8月15日、日本は長い戦争の幕を降ろした。麻布の朝倉邸は奇跡的にも戦火をまぬがれて、柳子も貴久子も琴子も、そして、朝倉男爵となった圭吾も亡き景清に守られたかのように無事生き長らえることができた。同年初冬。逼迫した食糧事情の下、柳子らは華族としてのプライドを捨て、近在の村へ買い出しに行かなければならなかった。その日も柳子は横柄な百姓夫婦にさんざん侮辱されるが、必死に耐えた。明日の貴久子の誕生日にどうしても米を持って帰りたかったのだ。そんな時、圭吾が華族制度が廃止されるとことを聞きつけてきた。柳子は心の支えを失い、生きるすべがわからなくなる。