『牡丹と薔薇』 企画・プロデューサー
インタビュー

――この作品が生まれた経緯・背景を教えて下さい。

脚本家の中島丈博さんと打ち合わせを行う中で、「子どもの取り違え」あるいは「子どもの取替え」をベースにした、女性2人の波乱に富んだ人生の話を作れませんか、と提示しました。
ただ「子どもの取り違え」等は、よくある題材でしたので、中島さんからは自分なりに設定や状況を変更して斬新なものをやってみたいというお話があり、今回のような構造のオリジナル作品が生まれました。

――「子どもの取り違え」「子どもの取替え」をベースにしようと思われたきっかけは何だったのでしょうか？

東海テレビでは子どもの取り違え等を題材にしたドラマを何回か作っています。
僕がかつてプロデュースした「運命の森」もその一つです。
「取り違え」という題材は、過去には実際に起こって社会問題となっていますが、いつ何時また起こるかもしれないし、巻き込まれた多くの人々が葛藤を抱える大問題なので、考え方の入り口にしてはどうかと提示しました。

――台本はどのように作られたのでしょうか？

脚本家の発想や書き口を一番大切にしますが、それをそのまま映像にして終わり、というわけではありません。
台本作りをとても大切にしているので、打ち合わせだけでも何度も繰り返しますし、1話単位の構成も作ります。議論や修正を重ね、書き起こしてもらった後も、直し作業を何度もしていただきました。

――制作期間について教えていただけますか？

当時の昼ドラは、およそ3カ月間で60～65話のサイクルで制作していましたが、平均すると準備から完成まで10カ月ほどかかります。
撮影は放送の2カ月くらい前から始まり、放送中も追いかけっこで制作が続きます。

――キャスティングはどのように行われたのでしょうか？

オーディションは基本的にしていません。プロデューサーと演出陣が中心となり、役のイメージとスケジュールなどを交渉して固めていきました。
ただ、昼の時間帯で、俳優さんにとってはやりがいを感じていただける反面、拘束時間が長く、主役級になると覚えなければならないセリフが膨大な量ですので、すぐに帯ドラマの世界に入っていただける俳優の方はそれほど多くありませんでした。
その中でキャラクターのイメージと合う人にご出演いただくというのは、スムーズにいく作業ではなく、キャスティングが難航するケースもあります。
『牡丹と薔薇』の2人（大河内奈々子さん、小沢真珠さん）に関しては、交渉が難航したという記憶はありませんが。

実は、ゴールデン・プライム帯のドラマに出ている旬の俳優の方々をキャスティングすることはあまりないんです。
新鮮さといいますか、駆け出しの新人の方を抜擢したり、最近はあまり見ないけど、という方にすごい役どころで出ていただいたり。うちでしかできないキャスティングというか、それが視聴者の方に鮮度として受け取っていただけることがあります。

――キャスティング前と作品に入られた後で、キャストの方々のイメージの違いはありましたか？

俳優の皆さんは、やり過ぎ、というくらいに振り切ってくださいました。
場合によっては、撮影が始まった際に「こんなことはできない」と言われてしまうケースもないことはないのですが、『牡丹と薔薇』に関しては、皆さんが楽しんで目いっぱいにやってくださったという印象があります。
実際に動いてセリフをしゃべってみないと分からないことや、相手役がいて初めて自分がどこまでテンションを上げていくか決まっていくこともあったと思います。
元々、書き物としてもとんでもないものでしたが（笑）、当時は「抑える」という気は全くなかったので……今だと放送できない可能性もあったと思います。

――緊迫するシーンが多くありますが、撮影現場はどのような様子だったのでしょうか？

毎日現場にいたわけではないのですが……僕が差し入れをもって覗きにいくと、皆明るかったと思います。
熱気があり皆がのっていると、現場を少しみても分かりますし、その熱が画面を通じて視聴者にも伝わると思います。

――過激なセリフ回しが多いですが、文学的な表現が多く、下品にならないと感じます。意識的にそうされたのでしょうか？

意図的にやったということはないのですが、とても長丁場の現場なので、普段のドラマではできないような展開だとか、中身が作れます。
一般的なドラマや映画では「省略の美学」みたいなところがありますが、この作品はその逆で、量が膨大であるが故に、書き尽くして、普段は書かないところまで書いていただいていいです、と頼んでいました。
そこから出てくるセリフなので、ナチュラルでもリアルでもないんですが、それが登場人物たちの心から出てくるもの、「なるほど」と腑に落ちるものがあれば、多少言い回しが古臭い、文学的な感じであっても良しとして止めることはありませんでした。
それが結果として、他では見たことがないような、このドラマならではの特徴になりました。

――思い入れのあるシーンを教えて下さい。

一番思い出深いのは、ラストの構造です。多くの打ち合わせと台本を積み上げていって、他にはないような、すさまじい話を作ってきたわけですが、ラストを作るにあたって、脚本の中島さんが「しっくりと収まらない」とおっしゃって、打ち合わせが滞った時期がありました。
僕も長い時間頭を抱えましたが、ふと思いつきで谷崎潤一郎の『春琴抄』の世界観はどうですかと中島さんにぶつけてみました。打ち合わせは中島さんのご自宅で行われていたのですが、谷崎潤一郎の全集が棚の良い位置に並んでいて、きっと好きな作家の一人なのだろうと思ったからです。
すると、中島さんが「！」というお顔をして、それでいけるかもしれない、とおっしゃって、このようなラストになりました。

ただ、放送してみると賛否両論で、批判も受けました。良かった、という人もいて、半々くらいでした。
僕らとしては、あのラストは、究極の姉妹の愛の世界を象徴する形で描けたと思っています。他の人だったらやらないような世界を表現できたと思っているので、制作過程も含め思い出深いです。

――互いに憎しみ、愛し合う牡丹と薔薇ですが、“愛憎劇”の魅力とは何だと思われますか？

「ドロドロの東海テレビ」と言われたりもしますが、激しいドロドロとしたものをやれば視聴者の方に受けるだろうと思って作ったことはないんです。
「愛憎劇」は、人間の皮をむいていくと一番奥深いところに残る、“むき身の本能”みたいな、真実みたいなところがあると思います。
誰もが一人では生きられないし、愛に飢えていて、それが叶わなかったり裏切られたりすると、その裏返しで激しい憎悪を持ったり、自分を苦しめたり痛めつけたりする。それは、人間が人間であるが故の、本能に近い部分だと思うんですよね。

それを突き詰めようとしてドラマを作っているところがあって、だから見ている方々も、「そこまではしないよね」と思いながらも、なぜそうしてしまうのかという本質の部分に関しては、隠しているだけで、皆が多かれ少なかれ持っているものじゃないかと思うので…。
愛と憎しみの中で苦しんだり、のたうち回ったりする姿は、自分自身もありうる、という見方ができるドラマなんじゃないかな。それが「愛憎劇」の面白さ、楽しさなのではないかという気がします。

人間の本質がどういうものか探ることを考えながら、ドラマを作っていたし、作らなければならないんだと言っていたし。私たちだけではなく、ドラマ作りの本質として、「人間を描く」ということはどこでも実践していることだと思いますが、大切なことですよね。

――ドラマを作る醍醐味とは、まさに「人間を描く」ということでしょうか？

人間の真実を追求しようとすると、ひとつはドキュメンタリー、ひとつではドラマや映画ということになりますが、ドラマはフィクションなので、創造できる部分がたくさんあって、事実の積み重ねとは違うアプローチで本質に迫れるのではと思います。
逆にフィクションでないと描けない真実があるのではと思っていて、そこに到達することはなかなかできないのですが、到達しようと思って作っています。

それが醍醐味と言えますし、“創造の世界”、リアリティを超えた飛躍の世界を使いながら本質・真実に迫ることができるので、それが楽しみでもあり、難しさでもあり、というところですかね。

――2004年の放送当時ご覧になっていた方も、今回BS11で初めてご覧になる方もいらっしゃると思いますが、視聴者の方にどこを注目していただきたいですか？

普遍的な人間の本質、真実を描き出そうとしているドラマなので、そういったところを見ていただければ嬉しいんですが、そんな堅苦しいことを言ってもしょうがないので……理屈抜きに楽しんでご覧いただければ、それ以上に嬉しいことはありません。

それと、時間が経った作品なので、映像表現的に古く感じる部分もあると思いますが、それを飛び越えた面白さは、今でも感じられる部分が多々あるのではと思います。

――ー貴重なお話をありがとうございました。