2026/09/13 12:10
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NEW 普通ってなに? 直木賞『けんぐゎい』が問う人間の多様性【オリコンBiZトーク】
直木賞『けんぐゎい』オリコンBiZトーク
7月15日に第175回芥川賞と直木賞が発表され、直木賞は朝倉かすみの『けんぐゎい』(光文社) が受賞した。同作は江戸時代を舞台に、過酷な運命を背負いながらもたくましく生きる女性の姿を描いた時代小説である。YouTube番組「オリコンBizトーク」では、見事受賞を果たした同作の紹介をはじめ、直木賞の裏話や注目を集めた他の候補作、そして女性最年長となる65歳で受賞を果たした著者の人間味あふれる素顔について探った。
今回で175回目を迎えた直木三十五賞だが、この名称の由来をご存知だろうか。直木三十五という名前は、元々「直木三十一」から始まり、毎年年齢に合わせて数字を一つずつ足していくペンネームだった。しかし、後に直木賞を創設する菊池寛からやめるよう忠告され、「三十五」でストップしたという逸話が残っている。言われて素直にやめる潔さも、歴史ある賞の裏話として非常に興味深いエピソードである。
今回の候補作には、累計売上19万部(※1)を突破している若林正恭の青春小説 『青天』(文藝春秋) をはじめ、蝉谷めぐ実の『見えるか保己一』、原田ひ香の『#台所のあるところ』、そして累計9万部(※2)以上を売り上げている凪良ゆう『多類婚姻譚』 など、多彩な作品が顔をそろえた。選考会では 『けんぐゎい』 と 『見えるか保己一』の2作で最終的な二択となり、『けんぐゎい』 が受賞を果たした。
直木賞受賞作『けんぐゎい』 は、一言で表すなら見事な起承転結で描かれた読み応えのある時代小説である。物語は「ウニコール」「りんぼ」「ガストホイス」「くゎいぶつ」という謎めいた4つの章構成になっている。序盤から中盤にかけては主人公にとって非常に苦しい展開が続くが、後半で見事な逆転劇を見せる。
主人公のふゆは、幼い頃に高熱を出して疱瘡を患い、顔にあばたが残ってしまった女性である。彼女はその見た目のせいで周囲の大人から冷遇されながら育つが、「微笑」が最上の受け答えであることを発見し、それを武器に周囲の反発をかわしながら過酷な環境を生き抜こうとする。妹のりよと母親の3人で暮らす中、おじの紹介で手習いの師匠である疋田重右衛門の元へ通うようになり、彼女の人生は少しずつ動き始める。
疋田の元で才能を発揮し始めたふゆだが、師匠が後継ぎとして連れてきた宗三郎という男によって、再び運命は暗転する。宗三郎は一見人当たりが良く、ふゆも淡い思いを寄せるが、実はとんでもない男であった。ふゆを手籠めにして妊娠させる宗三郎の行動には、読者の誰もが強い怒りを覚えるはずだ。
しかし、ふゆは決して負けない。彼女は怪力で大食いの同僚のつるらとともに、自分たちのようなはみ出し者が生きる「けんぐゎいの国」を作ると決意し、運命に抗っていく。この作品の大きな魅力は、登場人物にいわゆる「普通の人」がほとんどいないことである。物語後半のキーマンの一人である、心優しいちゅう太に対して、恩人であるひでさんが「お前は俺が見つけた100万人に1人の男の子だ」と語りかける場面がある。普通から外れてしまったとされる人々も、実はそれぞれが特別で唯一無二の存在であるというメッセージが込められており、中盤でふゆ自身もそのことに気づいていく描写には心打たれる。
朝倉かすみは、1960年生まれの北海道出身である。03年に 『コマドリさんのこと』 で北海道新聞文学賞を受賞し、翌04年には 『肝、焼ける』 で小説現代新人賞を受賞してデビューを果たした。その後も 『田村はまだか』 で吉川英治文学新人賞を受賞し、19年の 『平場の月』 では山本周五郎賞を受賞している。『平場の月』 は25年11月24日付けのオリコン週間文庫ランキングで2位に入り、累積14万部(※3)以上を売り上げる最大のヒット作となった。
今回は3回目の直木賞候補にして、女性最年長となる65歳での受賞だった。選考委員の辻村深月は「当時は声を上げることが難しかった女性たちの生き方を、物語の力で照らそうとした点が高く評価された」と述べている。朝倉氏は候補の連絡を受けた際、サイゼリヤの前で泣き崩れ、友人に心配されたという。また、占いで担当編集者との運勢が良かったため刊行を急いだという裏話もあり、作品の重厚さとのギャップが読者を惹きつける。
直木賞や芥川賞は、私たちが新しい作品や作家に出会う素晴らしいきっかけを与えてくれる。08年の直木賞受賞作である東野圭吾『容疑者Xの献身』 など、数多の名作が生み出されてきた。受賞作家が次にどのような作品を描くのか、今後の活躍からも目が離せない。ぜひこの機会に、特別なメッセージが込められた 『けんぐゎい』を手に取ってみてほしい。
※1、2、3 2026年9月7日付/オリコン調べ
今回の候補作には、累計売上19万部(※1)を突破している若林正恭の青春小説 『青天』(文藝春秋) をはじめ、蝉谷めぐ実の『見えるか保己一』、原田ひ香の『#台所のあるところ』、そして累計9万部(※2)以上を売り上げている凪良ゆう『多類婚姻譚』 など、多彩な作品が顔をそろえた。選考会では 『けんぐゎい』 と 『見えるか保己一』の2作で最終的な二択となり、『けんぐゎい』 が受賞を果たした。
直木賞受賞作『けんぐゎい』 は、一言で表すなら見事な起承転結で描かれた読み応えのある時代小説である。物語は「ウニコール」「りんぼ」「ガストホイス」「くゎいぶつ」という謎めいた4つの章構成になっている。序盤から中盤にかけては主人公にとって非常に苦しい展開が続くが、後半で見事な逆転劇を見せる。
主人公のふゆは、幼い頃に高熱を出して疱瘡を患い、顔にあばたが残ってしまった女性である。彼女はその見た目のせいで周囲の大人から冷遇されながら育つが、「微笑」が最上の受け答えであることを発見し、それを武器に周囲の反発をかわしながら過酷な環境を生き抜こうとする。妹のりよと母親の3人で暮らす中、おじの紹介で手習いの師匠である疋田重右衛門の元へ通うようになり、彼女の人生は少しずつ動き始める。
疋田の元で才能を発揮し始めたふゆだが、師匠が後継ぎとして連れてきた宗三郎という男によって、再び運命は暗転する。宗三郎は一見人当たりが良く、ふゆも淡い思いを寄せるが、実はとんでもない男であった。ふゆを手籠めにして妊娠させる宗三郎の行動には、読者の誰もが強い怒りを覚えるはずだ。
しかし、ふゆは決して負けない。彼女は怪力で大食いの同僚のつるらとともに、自分たちのようなはみ出し者が生きる「けんぐゎいの国」を作ると決意し、運命に抗っていく。この作品の大きな魅力は、登場人物にいわゆる「普通の人」がほとんどいないことである。物語後半のキーマンの一人である、心優しいちゅう太に対して、恩人であるひでさんが「お前は俺が見つけた100万人に1人の男の子だ」と語りかける場面がある。普通から外れてしまったとされる人々も、実はそれぞれが特別で唯一無二の存在であるというメッセージが込められており、中盤でふゆ自身もそのことに気づいていく描写には心打たれる。
朝倉かすみは、1960年生まれの北海道出身である。03年に 『コマドリさんのこと』 で北海道新聞文学賞を受賞し、翌04年には 『肝、焼ける』 で小説現代新人賞を受賞してデビューを果たした。その後も 『田村はまだか』 で吉川英治文学新人賞を受賞し、19年の 『平場の月』 では山本周五郎賞を受賞している。『平場の月』 は25年11月24日付けのオリコン週間文庫ランキングで2位に入り、累積14万部(※3)以上を売り上げる最大のヒット作となった。
今回は3回目の直木賞候補にして、女性最年長となる65歳での受賞だった。選考委員の辻村深月は「当時は声を上げることが難しかった女性たちの生き方を、物語の力で照らそうとした点が高く評価された」と述べている。朝倉氏は候補の連絡を受けた際、サイゼリヤの前で泣き崩れ、友人に心配されたという。また、占いで担当編集者との運勢が良かったため刊行を急いだという裏話もあり、作品の重厚さとのギャップが読者を惹きつける。
直木賞や芥川賞は、私たちが新しい作品や作家に出会う素晴らしいきっかけを与えてくれる。08年の直木賞受賞作である東野圭吾『容疑者Xの献身』 など、数多の名作が生み出されてきた。受賞作家が次にどのような作品を描くのか、今後の活躍からも目が離せない。ぜひこの機会に、特別なメッセージが込められた 『けんぐゎい』を手に取ってみてほしい。
※1、2、3 2026年9月7日付/オリコン調べ











